んや。らんぼうなやり方で、半分に切断しよった。中まで黄金かどうか見るつもりやったんやろ」
 老商はひとりごとをいいながら、黄金メダルを天秤《てんびん》の皿からおろし、こんどはそれを店の飾窓《かざりまど》の中にあるガラス箱の棚の一つの上にのせた。そのそばには、はんぱになった貴金属製の装身具が、所もせまく並べられてあった。片っぽだけのひすい[#「ひすい」に傍点]の耳飾りや、宝石がなくて台ばかりの金色の指環や、数の足りない真珠の首飾、さてはけばけばしい彫刻をした大小いろいろの指環や、古色そう然とした懐中時計をはじめ、何だか訳の分らない細工物《さいくもの》や部分品が、そのガラス箱の中にひしめきあっていた。
 それは、姉川五郎が黄金メダルを売りとばしてから三日目の昼さがりのことだった。
 その日は、ふしぎに例の三日月形の黄金メダルが客の目を吸いつけた。結局、その日黄金メダルにさわったお客の数は三名であった。
 最初の客は、意外な人物、立花カツミ先生であった。
 その日、立花先生は、新しい体操の実演と打合会のために海岸通りの扇港《せんこう》ビルの講堂で午前中を過した。それがすんで、外へでたが、そこで金谷先生といっしょになり、元町《もとまち》の方へ抜けて学校へもどることになった。そのとき万国骨董商チャンフーの店の前を通りかかったのである。
 はじめ、金谷先生がその飾窓の前に足をとどめた。先生はめったにこんなところへこないので、ガラス戸の中におさまっているいろいろの商品をもの珍らしくながめた。立花先生の方は、そんなものにあまり興味がないらしく、すこし迷惑そうな顔で、金谷先生のうしろに立っていた。
 その金谷先生が笑いだした。
「はははは。この店は、がらくた店なんだよ。ちょっと見かけはいいが、ろくでもないものばかり並べてある。あれなんか、金貨の半かけだ。金貨の半かけはおかしい。金貨にしては大きいからメダルかな。とにかく半かけでは買い手もあるまいに……」
 立花先生の顔が、飾窓へよってきた。
「立花先生。ほら、あそこにある金貨の半かけみたいなもの、あれはメッキですかな、それとも本物の金ですかな」
「さあ……」立花先生は、かすれたように声をだした。
「あれがもし本物の金だったら、あれだけあれば、うちの母のいれ歯もすっかり修理することができるんだがなあ」
「もう、いきましょうよ」先生二人は
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