体のような女だといわなければならない。
「いよいよ、こっちの用事だが」と女の声はいやに落ちつき払っている。
「おい、頭目さん、お前さんの大切にしている黄金メダルの半分をあっさりわたしに引き渡しておくれ。いやとはいわさないよ。早く返事をしてもらいたいね。おやおや、お前さんはなんてえ情《なさ》けない顔をするんだろう。わたしにゃ、紗の三重ベールなんか、あってもないのと同じこと、お前さんの素顔《すがお》が、ありありと見えているんだ」
暗闇で、ものが見える目を持っていると自称《じしょう》する女であった。こういわれては、四馬頭目もぺちゃんこだ。
「うそだ。見えてたまるものか」頭目の声がした。腹立たしさと恐怖とに、語尾がふるえて聞える。
「まあ、そんなことは放っておいて、おい、頭目。早く黄金メダルをおだしよ。おい、返事をしなさい返事を……」
頭目の声が、しばらくして聞えた。
「ばかをいえ。誰がだすものか」
すると、くくくくッと女が笑いだした。
「お前さんも間ぬけだねえ。そんなことをいう前にお前さんの頭の上を見るがいい。みんなも見るがいい」
「なにッ」頭目は上を見た。
「あッ、あれは……」彼の頭上一メートルばかりのところに、闇の中にもはっきり光ってみえる小さい物体があった。しばらく目を定めてみると、それが例の黄金メダルの半分であることが、誰の目にも分った。
「そんなはずはない」と頭目の声。
「あッ、無い。無くなっている、黄金メダルの半分が……。いつ、盗みやがったか」
「おさわぎでない。動けば撃つよ。わたしゃ、気が短いからね」
「何奴《なにやつ》だ、きさまは」
「まっくらやみで、目が見える猫女と申す者でござる。ほらお前さんの大切な黄金メダルが動きだした」
そのとおりであった。猫女のいったように、黄金メダルは空中をゆらゆらと動きだした。
「手をおだしでない。一発で片づけるよ」
ふしぎふしぎ、黄金にかがやくメダルは空中をとぶ。一同は、あれよあれよと、その運動を見上げているばかり。
そのうちに、宙飛《ちゅうと》ぶ黄金メダルは、流星《りゅうせい》のようにすーッと下に下りた。とたんに、扉がばたんと音をたてて閉った。
「あッ」一同は首をすくめた。
と、頭目の大きな声が、出入口のところで爆発した。
「ちえッ。逃げられた。戸の向こうで、鍵《かぎ》をかけやがった。おい明かりをつけろ。懐中
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