それをお話するためには、話を少し、もとへ戻さねばならぬ。

   首領《かしら》の両脚《りょうあし》

 裏切者の机博士が、猫女《ねこおんな》のはる綱にひっかかって、あわれ断崖《だんがい》のうえから、いのちの宙吊《ちゅうづ》りをやらされたことは、諸君も知っていられるとおりである。
 町へ使いにいった、仙場甲二郎《せんばこうじろう》という男が、この宙吊りを発見するのが、もう少し遅れたら、さすがの悪党博士もどうなっていたかわからない。おそらく、綱は棒からはなれて、博士はまっさかさまに谷底へついらくし、柘榴《ざくろ》のようにはじけていたかも知れないのだ。
 しかし、さいわい、仙場甲二郎の注進《ちゅうしん》によって、山塞《さんさい》のなかは大騒ぎになった。誰も博士が首領にたいして、あのような裏切行為をはたらいたことは知らないからよってたかって、やっと博士を、崖のうえへひっぱりあげた。
 このときばかりはさすがの机博士も、よっぽど肝《きも》をひやしたと見えて、青菜《あおな》に塩《しお》のようにげんなりしていたが、それでも、いうことだけはいい。
「いや、地獄の一丁目までいってきたよ。は、は、は、とんだお茶番《ちゃばん》さ」
「先生、じょ、冗談じゃありませんぜ。いったい、誰があんなことをしたんです」
「猫女だよ」
「猫女あ……?」波立二《なみたつじ》がとんきょうな声をあげた。
「猫女といやあ、いつか首領の手から、黄金メダルの半ペラをうばっていった……」
「そうそう、あいつだ。あいつが暗闇のなかからとびだして、わしをあんな眼にあわせおったのだ。あいつはほんとに闇のなかでも眼が見えるらしい」
 さすがの荒くれ男も、気味悪そうに顔を見合せた。
「それじゃ、先生、あいつがまた、この山塞へしのびこんだというのですかい」
「そのとおり、あいつはまるで空気のように、どこからでもこの山塞へしのびこむのだ。ひょっとすると、まだそこらの闇にしのんでいて、だしぬけにズドンと一発……」
「いやですぜ、先生、気味の悪い。いかにあいつがすばしっこいたって、忍術使《にんじゅつつか》いじゃあるまいし……」
「いや、そうではない。あいつは暗闇のなかで、眼が見えるくらいだから、忍術も使うかも知れん。だって、考えてみろ。いつかの晩だって、電気が消えたと思ったら、そのとたんあいつの声が四馬頭目《しばとうもく》のう
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