老人が元気いっぱいだったことである。牢の中でも、首領の前へ呼びだされたときでも、老人は一歩も歩けない重病人《じゅうびょうにん》のように見えた。それは、わざと重病人の風をよそおっていたのにちがいない。
 しかし老人が、いくら巧《たく》みに抜け道から抜け道をたどって逃げたにしろ、わるがしこい四馬剣尺《しばけんじゃく》の張ってある網の目をすべてくぐりぬけることはできないはずだった。だがすばらしい幸運が、老人と二少年とを助け、一度もへまをやらないで山塞の脱出に成功した。その幸運というのは、ちょうどこのとき山塞の中は、机博士事件でごったがえしていて、要所要所の見張りはおろそかになっていたのだ。
 なにしろ、おそろしいでき事だった。
 町まで使いにいって、ちょうど山塞の近くへもどってきた一味《いちみ》の一人が、ふと目をあげたとき、妙なものを見つけた。身体をぐるぐる巻きにされた一人の人間が、崖《がけ》から横にでている電柱のような長い棒の先から吊り下げられ、ぶらんぶらんと揺《ゆ》れているのであった。
「うわッ、あぶねえ」
 その使いの者は、仙場《せんば》の甲二郎《こうじろう》という男であったが、彼はびっくりして胆《きも》をひやし、その場へどすんと尻餅をついたくらいだ。見ていると、ますます人間は揺れ、今にもロープが棒の端からとけ、吊り下げられている奴は崖下へまっさかさまに落ちていきそうだ。甲二郎は、気が落ちつくのを待って立ち上ると、こんどは駆《か》け足でもって、山塞へとびこんだ。そしてこの変事《へんじ》を知らせたのである。もちろん、棒の先に吊り下げられて、ぶらんぶらんしていた人間は、机博士にちがいなかった。猫女の姿は、どこにも見えない。
 甲二郎の知らせで、さっきから机博士の行方《ゆくえ》を探していた団員たちは、それというので、山塞からとびだして、崖の上を見上げた。
「うわははは、たいへんだ。見ちゃおれん」
「たしかに机博士だ。早く下へ網を張れ」
「おい、首領に報告したか」
「知らせたとも。今ここへ、首領もでてくる、といってた」
 こんなさわぎが起っていたから、二少年と戸倉老人の脱出は、あんがい楽に行われたのだ。そしてみんなが網を張れだの、崖の上へいってそっと綱をひいてみろだの、竹ばしごを組んで二人ばかり登って助けろだのとさわいでいる間に三人の脱走者は反対方向の山へまぎれこんでしまっ
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