、ほとんど同時に、廊下の角《かど》を曲《まが》ったので、牛丸はその人物のうしろ姿をほんの一瞬間見ただけであった。その人物は背が高く、長いオーバーを着ていたように思った。正確なことは分らない。はっきり見たのはその人物の片方の足だけだった。水色のズボンをはいた長い脛《すね》であった。そしてスポーツごのみの派手な短靴をはいていた。
スポーツごのみの短靴がはやると見える。そうではないであろうか。
(誰であろう、今向こうへいった人物は?)
と、牛丸は首をひねった。しかし彼は、その人物を追いかけていくつもりはなかった。向こうへいってくれて結構《けっこう》であると思った。このすきに、早いところ逃げてしまうのだ。
「さあ、走るんや。今のうちなら、地下牢《ちかろう》の方へ引きかえせる」牛丸は春木をうながして、廊下を縫うようにして走った。彼は山塞の地理を研究して知っていた。運もよくて、彼は春木と共に、元の地下牢の方へ走りこむことができた。
そこには、戸倉老人が待っていた。
老人は、牢番《ろうばん》の小竹と身体をくっつけ合っていたが、少年たちがはいってきたので、離れた。小竹さんは猿ぐつわをかまされ、手足はぐるぐるまきにされ、椅子にしばりつけられてあった。小竹さんの目だけは自由に動いていた。いつもの睡《ねむ》そうなにぶい光の目ではなく、いきいきとした目つきで、みんなの顔を見ていた。恨《うら》めしそうでもなく、いかりにもえている様子もなかった。
「それじゃ、わしたちはでかける。あとは頼みます。これから毎日、あんたの無事を祈る。短気《たんき》をおこさぬようにな」
と、戸倉老人は、小竹の肩をかるく叩いて、眼に涙をうかべた。すると小竹は、二三回あごをしゃくってみせた。
「早くゆきなさい」と、いそがせているようだ。これでみると、戸倉老人と小竹との間にはひそかなる了解《りょうかい》があることが明らかだった。小竹がしばられたのも、二人|合意《ごうい》の上のことであるにちがいない。
そこで戸倉老人につれられ、春木と牛丸の二人は、山塞を逃げだした。どういくと抜け道にでられるか、そのことは戸倉老人がよく知っていた。要所要所の扉をあける鍵もちゃんと持っていた。あける前に、警鈴用《けいれいよう》の電気装置をうまく処分《しょぶん》することも、やはり老人が知っていた。
それより牛丸少年がおどろいたのは、
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