態度にますます恐縮《きょうしゅく》して、彼もまた一生けんめいになって破片を拾った。
しばらくしてそれは終った。小竹さんはそのまま立ち上り、外へでた。そして入口に錠をかけりて立ち去った。その小竹さんのおだやかさに、牛丸は始めたいへんに叱られると思っていただけに非常に意外で、小さい窓口から小竹さんのうしろ姿を見送っていた。
そのときであった、彼はうしろから、かるく背中を叩かれた。
[#底本では1字下げしていない]おどろいた、このときは! この監房には自分の外に誰もいないのだ。だから少年はびっくりして、その場にとびあがったのだ。ふりかえった。
「あッ」
「しずかに!」白いきれを頭からすっぽりかぶり、すその方まで長くひいた怪物《かいぶつ》が、子供の声をだした。その白いきれがとれ、中から少年の顔がでた。
「あッ、春木君!」
「牛丸君。よくぶじでいてくれたね」
「ぼくを助けにきてくれたんやな。こんなあぶないところへ、よくきてくれたなあ」二人は、ひしと抱きあい、頬と頬とをおしつけて涙をとめどもなく流した。
どうして春木少年は、このおそろしい山塞にもぐりこんだのか。また、小竹さんが、なぜ春木少年を、そっとこの監房の中へすべりこませたのか。
そのような春木少年の冒険ものがたりは、その夜くわしく、牛丸君に語られた。
また、牛丸君の家がその後、どうなっているかということや学校の話、警察の話、チャン老人殺しの話など、春木君が牛丸君のために話してやることは多かった。
牛丸君の方でも、この山塞に連れてこられてからこっちのことについて語ることが少くなかった。
それらのことがらの中で、読者がまだ知らない話をここで述《の》べたいのであるが、今はそれができない。というのは、今ちょうど、机博士の身の上におそろしい危難が迫っているからである。その方を先に記《しる》さなくてはならない。
罠《わな》くらべ
黄金《おうごん》の糸で四|頭《とう》の竜《りゅう》のぬいとりをしたすばらしくぜいたくなカーテンが、頭目台《とうもくだい》のうしろに垂《た》れている。
台の上には、頭目用の椅子が一つおかれているだけで、人の姿はその上にない。いやこの部屋には今誰もいない。
垂れ幕の奥では、かすかな音が、ときどき聞える。
頭目が、この夜更《よふ》けに、なにか仕事をしているのであろうか。もう只今《
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