に命令を下して、戦闘準備を整えなきゃ間にあわないぞ」
アサリ女史は、ぷんと頬をふくらました。それでも彼女は外出をやめて、早速索敵戦隊長と爆撃戦隊長のところへテレビジョン電話をかけた。
しかし受影スクリーンには探す二人の姿は現われず、只空虚な四角い壁だけが映っていた。
「どうしたんだ、二人とも」
とミルキ閣下が言った。
「いえ、只今丁度十時の音楽浴が始まっているところなんですよ」
なるほど音楽浴のメロディーが遠くかすかに鳴っている。二人の隊長は、音楽浴の法令に従うため、廊下に[#「廊下に」は底本では「廓下に」]出てめいめいの座席についているのだった。ミルキ閣下は憤激の色を表わし、
「なんだ。困るじゃないか。戦闘準備をよそにして音楽浴に漬からせとくのかネ。この非常時に国民全体が部署を捨てて音楽浴をやっているなんて、そんなべらぼうな話はありゃしない」
「そんなことはありません。そうでもしなければ国民全体をこっちの自由にあやつることは出来やしませんわ」
「君は、火星のロケット艦が毒ガス弾を撃ちだしても、当国ではただいま音楽浴中だからそれが済むまでちょっとお待ち下さいっていうつもりだろう
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