る様子にミルキ閣下は愕いてついに大喝した。
「待て、アサリ女史。ミルキの名をもって、この人造人間に傷害を加えることを許さぬぞ。人造人間は国のため貴重な研究品だ。わしはいままでに八百億ルクルの金を、この研究のために支払っているぞ、殺しちゃならぬ。ナイフを収めい」
「閣下」とアサリ女史はミルキの胸ぐらを取って、「ご命令には従います。しかし今誓って下さい。この出来損いの人造人間に閣下が人間に対するような言葉をおかけにならぬように」
「うむ。そいつはよくわかっている。わしに何らの他意のないことはお前もよく知っているじゃないか」
 そういうと、女大臣はにわかに眼を細くして、おもはゆげに顔を赭らめた。
 部屋の隅ではペンがひとりでにがりきっていた。
「なんだ、面白くもない。バラの奴は人造人間を愛してやがるし、女大臣はミルキ閣下と密通していたんだ。それじゃあ俺も遠慮することはなかった。俺と仲のいい靴工ポールの奴は身体を女性に直しやがったが、あれは俺と一緒になりたくてそうしたのにちがいない。よオし、これから行って本気で話をつけてこようや」

      9

 その翌朝のことだった。
 ミルキ閣下と女
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