どこにあったのかは分らなかった。しいて考えれば、博士コハクが持ちこんだとしか思われなかった。でも博士がなぜ爆薬を用意してきて、自ら爆死したのか、ミルキ閣下にはそのへんの事情がいっこう腑に落ちないのだった。

      6

 博士コハクの身の上にそんなことが起ったとは夢にも知らぬ男学員ペンと女学員バラとだった。
 二人はバラの私室で、しきりに悪どいふざけかたをしていた。しかしやがて二人の昂奮は大風に遭った霧のように跡形もなく消えてしまった。そして二人は別々にものうい倦怠の中に吐息している自分自身を見出した。
 二人は別々に、なにがこう面白くないんだろうと考えた。
「ちかごろ、君はどうも冷淡にすぎるね」
 とペンがバラに言った。
「だってそれはお互いさまだから、仕方がないわ」
 バラは枕許のさすり[#「さすり」に傍点]人形を撫でまわしながらいった。さすり[#「さすり」に傍点]人形は、摩擦によって触感を楽しむ流行の人形だった。喫煙の楽しみを法令で禁ぜられた国民が、これに代る楽しき習癖として近頃発見したものだった。
「君はこの頃、僕が嫌いになったんじゃないか」
「さあ、どうだか。――とにか
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