「はい。金庫の一番奥へ入れておきます。三つ鍵を使わなければあかない引出へ入れます」
課長は椅子から立上った。と同時に、もう幽霊事件のことは忘れてしまって、彼の注意力は他の捜査事件の方へ振向けられた。
だが、課長が黄表紙のパンフレットを紙包から別にはなして、部屋の隅の大金庫へしまいこませたことは、せっかく蜂矢探偵が持ちこんだ大切な「幽霊の餌」を課長が勝手に処分したわけであり、そういうことは蜂矢探偵への信義を裏切ることにもなり、またやがて夕刻からおこなわれる雪子学士の幽霊招待の実験にも支障をおこすことになりはしないかと危ぶまれるのであった。
出現の時刻
古島老刑事は、さっきから、銀ぐさりのついた大型懐中時計の指針ばかりを見ている。
もう夕刻であった。折柄《おりから》、空は雨雲を呼んで急にあたりの暗さを増した。ここ捜査課はいつもとちがい、この日は電灯をつける事が厳禁されていたので、夕暗《ゆうやみ》は遠慮なく書類机のかげに、それから鉄筋コンクリートを包んだ白い壁の上に広がっていった。
課長の机の上には、雪子学士の研究ノートが数冊、積みかさねられてある。課長の椅子はあいてい
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