道夫は大きく目を見はった。道夫の勉強のめんどうをよく見てくれる雪子姉さん、弟のように道夫をかわいがってくれる雪子姉さん、背の高い色の白い上品なすがたの雪子姉さん。――婦人ながら医学士と理学士であり、自分の家にかなりりっぱな研究室をもっている木見雪子嬢、年齢《とし》は二十五歳だがそれより二つぐらいふけてみえる木見学士、高い鼻の上に八角形の縁《ふち》なし眼鏡《めがね》をかけている美しい若い研究者――その木見雪子が突然行方不明になったというのである。道夫の驚きは大きかった。彼が心の中でひそかに予想したうちでの最も大きい不幸な事件であったではないか。
「雪子姉さんは、いつから行方不明になったの。いつお家をでていったの」
道夫は、母親を茶の間へ追っていきながらたずねた。
「さあ、それがね道夫さん、どうも変てこなのよ」
「変てこって」
「つまり、雪子さんはお家からでていったように思われないんですって、お家には、雪子さんの靴を始め履物《はきもの》全部がちゃんとしているの。だのに、家中どこを探しても雪子さんの姿が見えないの。変てこでしょう」
母親は道夫のために小箪笥《こだんす》からおやつの果物
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