……」
と、道夫はその場に立ちすくんだ。彼は何を見たか。暗い部屋の中に、宙にうかんでいる女の首を見たのであった。
のびる顔
道夫は、おどろきのあまり、その場に化石のようになってしまった。
しかし道夫の眼だけは生きていた。彼の眼は、おそろしいものの影をおっていた。闇の研究室の中に、そのおそろしい女の首だけが見えている。宙にうかんでいる女の首。ぼんやりと赤い光に照らされているようなその首だけが見えるのだ。
(なぜ、あんなところに、女の首が宙にうかんでいるのだろう?)
道夫は、そのわけを早く知りたかった。が、そのわけはさっぱりわからない。
(おや、あの首は、雪子姉さんに似ている……)
道夫は、ふとそのことに気がついた。
(雪子姉さんが、家にもどってきたのだろうか)
それなら、こんな喜びはない。――雪子姉さんが戻ってきて研究室へ入ったのだ。室内の灯が、雪子姉さんの首だけを照らしているのだ。だから、姉さんの首だけが見えるのだ。
「ああ、何という僕はあわて者だったろう」
道夫は、おかしいやらはずかしいやら、そしてまたうれしいやらで庭石の上から芝生《しばふ》へ下りようとした。
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