らしい魅力とが、科学真理の車体に諸君を乗せ科学推理の車輪をつけて、まっしぐらに神秘の世界へ向って走っているのに気づかれるであろう。それはともかく、この神秘な物語も、その発端《ほったん》は一見平凡な木見雪子《きみゆきこ》学士の行方不明事件から始まる。

   学士嬢の失踪《しっそう》

 中学二年生の三田道夫《みたみちお》は、その日の午後、学校から帰ってきたが、自分の家の近所までくると、何かただならぬ空気のただよっているのに気がついた。
 緑あざやかな葉桜の並木、白い小石を敷きつめた鋪道《ほどう》、両側にうちつづいた思い思いの塀《へい》、いつもは人影とてほとんど見られない静かな住宅区の通りであったが、今日ばかりはそうでなかった。顔なじみの近所のお手伝いさんが、ほとんど総出《そうで》の形で、どの家かの勝手口の門の前に三四人ずつかたまって、何かひそひそ話をしながら、通りへ眼をくばっていた。中には、娘さんや奥様の姿もあった。そうかと思うと、この町では全く見なれない人物が、塀の蔭《かげ》や横丁《よこちょう》の曲り角に立っていた。洋服男もあり、和服の人もあり、いずれも鋭い眼付《めつき》をして、道夫
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