ことにそれは失敗に終った。われわれはすばらしい天才を失ってしまった」
 すすり泣く声が聞えた。雪子の両親が、手を握りあって泣いているのだった。
 この事件について、始めから隠れたる探究をつづけていた蜂矢探偵は、この日も雪子の家のまわりを監視中であったところ、室内に雪子と道夫があらわれたので早速《さっそく》家人に知らせ、そして成行《なりゆき》をそっと別室から窺《うかが》っていたのだった。
 雪子が死んでしまったので、三次元世界と四次元世界との間の交通がどうした方法によってできるのか、ついに謎のまま残されることになった。蜂矢十六は、それは多分身体にある特殊の振動を加えることではないかと思うと道夫にちょっと語ったが、息たえた雪子の死体が明らかに三次元世界へもどりえたこと、それまでは雪子の身体にふれたものは気持わるい振動を感じたことから思いあわせて、それは本当かもしれない。
 川北先生はその後、六十日目にようやく意識を回復したが、先生の話によると、雪子学士とともに四次元漂流中の記憶といえば、苦しさの外になにもおぼえていないそうである。三次元世界と四次元世界との交通を、これから誰が開こうとするのか。道夫少年が大きくなったらそれを進めるかもしれない。そのときは蜂矢探偵と川北先生とがよい相談相手になることであろう。



底本:「海野十三全集 第11巻 四次元漂流」三一書房
   1988(昭和63)年12月15日第1版第1刷発行
初出:「子供の科学」
   1946(昭和21)年3月〜1947(昭和22)年2月
入力:tatsuki
校正:浅原庸子
2005年1月16日作成
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