とばかり考えていたので、そう思ったのかもしれない。
(どうして、あの首が俄《にわ》かに上下に馬の顔のように伸びたんでしょう)
 わからない、全くわからない。
 考えつかれて、道夫はとろとろと少しねむった。と、やがて悪夢におそわれた。地獄の中で大捕物があって、結局自分がおそろしい鬼や化け物に追いまわされている夢だった。うなされているところを、誰かに起された。
 起したのは、道夫の母だった。もう朝になったと見え、ガラス戸に陽《ひ》がさしていた。
 道夫は、昨夜のことを母に話さなかった。それは、そんなことを話して母が気味わるがるにちがいないと思ったからだ。
 朝飯がすんで、道夫は学校へいくために家をでたが、すぐ駅の方へはいかず、お隣へよった。昨夜の怪事を、木見家の人々が知っているかどうか、それを知りたかったので。雪子の母親は、いつに変らぬ調子で現われて、道夫がいつもなぐさめにきてくれることを感謝した。
(ふうん、すると小母《おば》さんは昨夜の怪しい首のことを、まだ知らないのだな)
 と道夫はそう思った。知らなければ、今いわないでもよいであろう。
 が、一つ聞きたいことがあった。
「小母さん。昨夜、研究室の入口の扉は、しめてありましたか」
 雪子の母親は、なぜそんなことを聞くのかといぶかりながら、答えてくれた。
「あの入口の扉は、いつもちゃんとしめてありますの。なんだか気味がわるくてね」
「はあ、そうですか。そして、鍵はどうでしょう。昨夜研究室の扉の鍵はかけてありましたか。どうなんですか」
「鍵? ええ鍵はちゃんとかけてありましたよ。まあ、なぜそんなことをお聞きなさるの」
「ええ、それは……それはちょっと考えてみたいことがあったからです」
 道夫は、そこで話を切って、外へでた。
 不思議だ、不思議だ。研究室の扉に錠が下りていたのなら、外からあの部屋へは誰も入れないはずだ。すると昨夜見たあの女は、いったいどこからあの部屋へ入りこんだのであろうか。いよいよわけがわからなくなった。

   川北《かわきた》先生

「おい三田君。君は何か心配事でもあるの。近頃みょうにふさぎこんでいるじゃないか」
 学校でのお昼休みの時間、運動場のすみの木柵《きさく》によりかかって、ぼんやり考えこんでいる、道夫の肩を、そういってたたいた者があった。
「あ、川北先生……」、
 主任の川北先生が、眼鏡の
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