ことを述べ、医者を迎えるまでに片づけておきたいものがあるからちょっと手をお貸しといってキヨを引張っていった。
「キヨ、いいかい。知れるとうるさいから此室《このへや》からトランクだのを搬《はこ》んだことは、誰にも云っちゃいけないよ。いいかい」
と妾は念入りな注意をすることを忘れなかった。キヨは黙って頭を振って同意を示すだけでいつものようにハッキリと返事をしなかった。どうやら真一ののけぞった屍体《したい》を見てから、すっかり恐怖に囚われてしまったものらしい。
丁度そのときのことであった。ジジーンと、突然玄関のベルが鳴った。折が折とて妾は胸を衝《つか》れたようにハッとし、持ちあげていた荷物をドスンと廊下へ落してしまった。
「呀《あ》ッ。キヨ、入れちゃあいけないよ。入れちゃあいけないよ……」
誰だろう?
警官だろうか。妾の胸は早鐘のように躍った。
ジジーン。ベルは再びけたたましく鳴った――もうお仕舞《しま》いだと思った。
「もしもし西村さん。もうお寝み? あたくし速水なんですけれど」
ああ、速水、――なるほど女探偵の速水春子女史の声に違いなかった。ああ、丁度いいところへ、いい人が来
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