人だった。妾は女探偵などというと、もっと身体の大きな体操の先生のような婦人を想像していたのであるが、速水春子女史はそれとは違った智恵そのもののような女性だった。しかし彼女の眼だけはギロリと大きくて、妾にとってはたいへん気味がわるかった。
「新聞で拝見しましたんでございますけれど……」
 と女史はさも慣れ切っているという風に話の口を切った。
「たいへん六《むつ》ヶ敷《し》そうなお探しものでいらっしゃいますのネ。あたくしにお委せ下されば、イエもう永年の経験でこつは弁《わきま》えて居りますから、すぐに貴女さまのご姉妹を探しだしてごらんに入れますわ。……ええと、それでまずその問題のお父上の日記帳というのを拝見しとうございますが……」
 妾は手文庫のなかから、父の日記帳をとりだした。それはポケット型というのであろう、たいへん小さな冊子で黒革の表紙もひどく端がすりきれて、その色も潮風にあたって黄いろく変色していた。それを開くと、中は罫《けい》なしの日附は自由に書きこめるという式の自由日記で、尖《さき》の丸い鉛筆を嘗《な》め嘗《な》め書きこんだらしい金釘流の文字がギッシリと各頁に詰まっていた。女流探
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