しているのである。今より十八年の昔というから、それは妾の五六歳ごろのことである。といえば妾の本当の年齢が知れてしまって恥かしいことではあるが、まあ算術などしないで置いていただきたい。
 妾の尋ねるはらからについては、それ以前の記憶もなく、またその以後の記憶もない。まるで盲人が、永い人生を通じて只一回、それもほんの一瞬間だけ目があき、そのとき観たという光景がまざまざと脳裏《のうり》に灼《や》きついたとでも譬《たと》えたいのがこの場合、妾のはらからに対する記憶である。思うに、それより前は、はらからと一緒にいたこともあるのであろうが、当時妾は幼くて記憶を残すほどの力が発達していなかったのだろうし、それ以後は、妾とはらからとが何かの理由で別々のところに引き離されちまって記憶が絶えてしまったのであろう。とにかく川沿いの寮の光景は恰《あたか》も一枚の彩色写真を見るようにハッキリと妾の記憶に存している。
 なぜ妾がはらからを探すのかという詳しいことについては、おいおいとお話しなければならぬ機会が来ようと思うから、今はまあ云うことを控えて置こうと思う。
 ――とにかく当時は五歳か六歳だった。黄八丈の着
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