ここは階段式になっていて、まわりの座席は高く、演壇《えんだん》はまん中にあって、どこよりも低く、そこへあがるには地下道からしなければならなかった。問題の金属球は、この演壇の上におかれてあった。そして周囲には偏光《へんこう》ガラスのついたて[#「ついたて」に傍点]がとりまいていた。これは、中からは外が見えないが、反対に外から中はよく見えるものだった。こんなついたてを用いたわけは、金属球の中から出て来るはずの小杉正吉少年を、あまりたくさんの見物人のためにびっくりさせないための心づかいだった。
カンノ博士とあと五人の人だけがついたての中に入った。そして金属球の扉Aの中にあった注意書のとおり、その底をやぶって電気のプラグを出し、それに指定どおりの交流電気を送りこんだ。それはちょうど午前十時だった。
その翌々日《よくよくじつ》の午前十時に、みんなが手にあせにぎっているうちに、その球は花がひらくように、しずかに四つにわれた。そして中からかわいい少年があらわれた。小杉正吉君だった。七百名の見学者は、思わず手をたたいてしまった。三十年前に冷凍された少年が、今りっぱに生きかえって、あらわれたから
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