ていった。
うばガ[#「うばガ」に傍点]谷の万年雪のことは、むかしから一番面積のひろいものとして、よく人に知られていた。それはまるで氷河のようにこちこちに固まった古い雪であったが、それさえこんどの暑さで両側からとけだし、日に日にやせていった。登山者たちがおどろいたのもむりではない。
「こんなところに流れがあったかね」
「いや、知らないね。地図でみると、どうしてもここは、うばガ谷のはずなんだが?」
「でも、へんよ。地図からはかって、ここはどうしてもうばガ谷よ。この地図をごらんなさい。ほら、この岩」
「なるほどなあ、あれはたしかに三角岩だ。これはおどろいた。おい君、有名な万年雪が今年はすっかりとけてしまったんだぜ」
その人は、とつぜんことばを切って、目を皿《さら》のように大きく見ひらいた。
「――何だろう、あれは。……あそこを見たまえ、何だかしらないが、大きなまるい球《たま》がある。あの沢の曲ったところだ。見えないかい、君たちには……」
彼はおどろきをこめて、前へのりだしながら下手《しもて》を指さした。
「なるほど。見えるよ。大きな球だ。ぴかぴか光っているね。金属球《きんぞくきゅう》
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