すべきである――というのです」
カニザワ東京区長は、そう語りながら、ハンカチーフを出して、顔の汗《あせ》をぬぐった。おそらく氏は、その戦争|勃発《ぼっぱつ》一歩前の息づまるような恐怖《きょうふ》を、今またおもいだしたからであろう。
「で、戦争は起ったのですか、それとも……」
「もう一つの重大なことがらは」
と区長は正吉の質問にはこたえず、さっきの続きを話した。
「連合科学協会員は最近|天空《てんくう》においておどろくべき観測《かんそく》をした。それはどういうことであるかというと、わが地球をねらってこちらへ進んでくるふしぎな星があるということだ。それは彗星《すいせい》ではない。その星の動きぐあいから考えると、その星は自由|航路《こうろ》をとっている。つまり、その星は飛行機やロケットなどと同じように、大宇宙を計画的に航空しているのだ」
「へえーッ。するとその星には、やっぱり人間が住んでいて、その人間が星を運転しているんですね」
「ま、そうでしょうね――だからわれわれは、もう一刻《いっこく》もゆだんがならないというのです。その星はわが太陽系のものではなく、あきらかにもっと遠いところからこっちへ侵入《しんにゅう》して来たものだ。そしてその星に住んでいるいきものは、わが地球人類よりもずっとかしこいと思われる。さあ、そういう星に来られては、われわれはちえも力もよわくて、その星人《せいじん》に降参しなければならないかもしれない。そのような強敵《きょうてき》を前にひかえて、同じ地球に住んでいる人間同士が戦いをおこすなどということは、ばかな話ではないか。そのために、われわれ地球人類の力は弱くなり、いざ星人がやってきたときには防衛力《ぼうえいりょく》が弱くて、かんたんに彼らの前に手をつき、頭をさげなければならないだろう。――それをおもえば、今われわれ人類の国と国とが戦争するのはよくないことである。つまり、『今おこりかかっている戦争はおよしなさい』と警告したのです」
「ああ、なるほど、なるほど、そのとおりですね」
「それが両国によく分ったと見えましてね、爆発寸前というところで戦争のおこるのは、くいとめられたんです。お分りですかな」
「それはよかったですね。しかし、そんならなぜ、あのようにたくさんの原子弾《げんしだん》の警戒塔や警報所や待避壕《たいひごう》なんかが、今もならんでいるので
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