も昔の三等寝台のように、何段も重なった棚の上にうえられていた。みんなよく育っていた。
「このきゅうり[#「きゅうり」に傍点]を見てごらんなさい」
 そこの技師からいわれて、正吉はそのきゅうり[#「きゅうり」に傍点]をみていた。
「おや、このきゅうり[#「きゅうり」に傍点]は動きますね。どんどん大きくなる」
 正吉はびっくりしたり、きみがわるくなったり、これはおばけきゅうり[#「きゅうり」に傍点]だ。
「この頃の農作物は、みんなこのようなやり方で栽培《さいばい》しています。昔は太陽の光と能率のわるい肥料で永くかかって栽培していましたが、今はそれに代って、適当なる化学線と電気とすぐれた植物ホルモンをあたえることによって、たいへんりっぱな、そして栄養になるものを短い期間に収穫できるようになりました。こんなきゅうりなら、花が咲いてから一日|乃至《ないし》二日で、もぎとってもいいほどの大きさになります。りんご[#「りんご」に傍点]でもかき[#「かき」に傍点]でも、一週間でりっぱな実となります」
「おどろきましたね」
「そんなわけですから、昔とちがい、一年中いつでもきゅうり[#「きゅうり」に傍点]
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