いは大したものですよ。これからそっちへご案内いたしましょう」
 正吉は、区長たちの案内で、ふたたび地下へ下りた。
 地下といえば、正吉は地下鉄の中のかびくさいにおいを思い出す。鉄道線路の下に掘られてある横断用の地下道のあのくらい陰気《いんき》な、そしてじめじめしたいやな気持を思い出す。また炭坑《たんこう》の中のむしあつさを思い出す。
 だが、区長たちに案内されていった地下街は、まったく違っていた。陰気でもなく、じめじめなんかしておらず、すこしもかびくさくない。またむしあついことなんか、すこしもなかった。それからまた、いきがつまるようなこともなかった。
 だから、まるで気もちのいい山の上の別荘の部屋にいるような気がし、また気もちのいい春か秋かのころ、街道を散歩しているようでもあった。
「それは、ですね。この地下街を建設するためには、あらゆる衛生上の注意がはらってあって私たちが気もちよく暮せるように、いろいろな施設が備《そな》わっているのです。たとえば空気は念入りに浄化《じょうか》され、有害なバイキンはすっかり殺されてから、この地下へ送りこまれます。また方々に浄化塔があって、中でもって空気
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