だから空気服を全員につけさせるのだ。
 点検が行われた。空気服のつけ方が正しいか悪いかをしらべるのだ。もし悪い者があると、すぐつけ直す。そうしておいてやらないと、万一のとき空気服が役に立たない。艇長マルモ・ケンはすぐれた宇宙探検家であるからして、こういう大事なことに、深い注意を払《はら》うのだった。
 空気服点検もおわった。全員異状がない。
「着陸用意。全員|部署《ぶしょ》につけ」
 ロケットはだんだん高度を下げていった。一たん艇内にたたみこんであった翼を出し、これにも噴射ガスが月の面にあたって、反射してくるのをあて、一種の浮力《ふりょく》としてはたらかせる。その外にも、ガスを月の面《おもて》の前後に叩きつけて、スピードのかわるのを、人体にちょうどいい程度に調節する。
 それでも、かなりのスピードが出ていた。雲の海というところは、やや黒ずんだ沙漠であるが、それが艇の下を洪水のように流れていく。
 が、ついに艇は、月の面にふれた。とたんにガスの放出はとめられ、艇は滑走《かっそう》で前進する。艇の通りすぎるうしろには、もうもうと砂煙があがって、まるで艇が火災を起したようだ。
 やがて艇は停った。その下三分の一が、雲の海の砂にうずもれた状能で、停止した。
「やれやれ。無事着陸したぞ」
「えっ、無事着陸しましたか。月世界へついたんですね」
「もちろんのことさ。ほかのどこへ着陸するものかね」
「ああ、うれしい。さっそく地球にのこして来た家族へ電話をかけたいものだ」
「それは間もなく許されるだろう。その前に本艇が着陸した目的の仕事を片づけてしまわねばならない」
「その目的というのは、何ですね」
「今に分るよ。見ておいで」
 高級艇員と、こんど初めて月世界旅行について来た若い艇員との間に、こんな話がとりかわされている。
 正吉少年の姿が[#「姿が」は底本では「艇が」]見えない。
 いや、いや。装甲車が用意されているそばに、彼は立っていた。


   勝手がちがう話


「さあ、乗った」
 そういったのは、カンノ博士だった。観測班長だ。
 博士も正吉も、さっきまで着ていた空気服をぬいでいた。装甲車に乗る者は、それを着ないでいいのだ。もちろん用心のために持っているが、それは装甲車の中が、気密になっているからである。
 装甲車は、みんなで十台あった。一台をのこして、九台が出かけるように
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