カンノ博士一行は、やがて光る怪塔に近づくことができた。
 そばへよって見ると、いっそうすばらしい建造物であった。
 しーんとしている。ただ塔は、青白く光っている。
 塔のまわりをまわった。塔には、窓もないし、入口らしいものもない。ただ円柱《えんちゅう》がより集まって、高い塔をつくっているだけだ。
「文字みたいなものがありますね。一階が二階につくところですよ。たしかに文字だ」
 そういったのは、正吉だった。
 それは装飾《そうしょく》のように見えた。しかし、正吉のいったように、文字だと思ってみると、文字のようでもあった。アルファベットなのである。
「なるほど、これはふしぎだわい」
 カンノ博士も、急に目をかがやかせて、それを見上げた。
 文字は、へこんでいた。それが熱のために摩滅《まめつ》したと見え、文字として残っていたのだ。
「なんの文字? 人間の使う文字かい」
 キンちゃんが正吉の腕をゆすぶる。
「アルファベットだよ。人間の使う文字だ」
「そうかい。なんだ、おどろかされたね。それじゃ、この塔は地球からとんで来たものじゃないか。中には、うんとごちそうが入っているんだろう」
 キンちゃんは、ずばりといった。
 まさか――と、正吉は思ったし、カンノ博士たちも、そこまでは考えなかった。
 ところがキンちゃんのいったことはだいたい的中したのだった。
 文字を読んでみると、次のような文章になった。
「マルモ探検隊に贈る。この資材を有効に使って、大探検に成功せられるよう祈る。ニューヨーク市マンハッタン街、世界連盟本部科学局より」
 読み終って、カンノ博士たちは、へたへたとその場にしりもちをついた。それは緊張の頂上から、安心の谷へ、一度に落ちたからであった。
 他の遊星と出会いおそろしい争闘がはじまるものと覚悟して、おそるおそる近づいた光る怪塔は、そのような恐怖すべき危険なものではなく、そのあべこべのものだったのである。まったくそんなことを予期もしていなかったのに、マルモ探検隊のことを心配して地球上から見まもってくれていた世界連盟本部からの温かい貴重な贈物だったのである。救済物資《きゅうさいぶっし》がいっぱいはいっている塔だったのである。食糧、衣料、燃料、機械工具などいっぱいつまっている。飛ぶ倉庫だったのである。アメリカの持つすぐれた科学技術だ。一本一本の円筒《えんとう》の中に、
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