住して来るための準備作業だと思いますわ」
「なんとかして、一刻も早く、相手の正体をたしかめる方法はないものかなあ」
 マルモ隊長は、隊員をひきいている責任上、そのことを知りたいのだった。危険ならば、一刻も早く隊員をまとめてこの火星を去ることにしたい。あの怪塔を探検して、こんどの宇宙旅行のおみやげをふやしたい。
「そうだ。いいことがあります」
 とカンノ博士が、目をかがやかした。
「いいこととは、なにかね」
「隊長。あの水棲魚人と問答をしてみたいと思います。つまり、水棲魚人は、あのような怪塔をはじめて見たかどうか、それをきいてみましょう。たびたび、あんなものが落下して来たのならそれがどんな仕掛のものであるか、どんなことをするものであるか。それが知れると思います」
「それは名案だ。さっそくきいてみるがいいが、そんなことが出来るのかね」
「それはできます。私とスミレ女史《じょし》とで、この間から水棲魚人と、思っていることを話し合う研究を完成していますから、大丈夫です」
 そこでカンノ博士とスミレ女史とは、装置をかついで、水棲魚人の大ぜい集まっている沼のところへ出かけた。正吉も、このことを聞いて、おじさんのモウリ博士といっしょに、一行に加わって行った。
 その会見の光景は、ふしぎなものであったし、また記録すべきものであった。
 人類と水棲魚人の頭脳の中におこる脳波をとらえて、装置が、相手に分るような脳波に直して、相手に伝えるのであった。だから、口をきかなくても、ただ、相手に聞きたいことを、頭の中で思うだけでその質問は相手に通じた。
 相手の方でも、それをことばで返事を頭の中で思えば、それで通じるのであった。
 水棲魚人は、人類よりもずっと劣等《れっとう》な生物だったから、こみいったことを返事することはできなかった。それだから、水棲魚人から返事をとることには成功したが、人間同士の話のようには、はっきり通じなかったのは、やむを得ない。ともかくも、水棲魚人がこたえた要点を、次にしるしておこう、
「あんなものは、はじめて見た……空を、あんなものが一つか二つとぶのを見たことはあるが、あんなにたくさんとんできたのは、はじめてだ……いつまでも、全体があんなに光っているものを、今まで見たことはない……一つか二つでとんできて、その中から生物がぞろぞろ出てきたことは、今までにもある。君たちも、
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