してとび出した二つのぐりぐり目玉が、しきりに動いた。
「ふーン。あれでも魚かしらん」
 と、キンちゃんは、思わずうなった。
「それは魚にちがいないさ。水の中にすんでいるんだもの。そして、ほらひれ[#「ひれ」に傍点]みたいなものがあるし、顔だって魚に属する顔付きじゃないか」
 正吉が、ひそひそとささやいた。
「そうかなあ。しかし、あの魚はたべられそうもないよ。毒魚じゃないにしても、肉の味がとてもまずいにちがいない。がっかりだい」
 キンちゃんは、たべられないと判定した。
「そうれ、ごらんな。だが、キンちゃん。もっと辛抱して、あの魚どもがどうするか、見ているんだよ。たべないにしても、一ぴきぐらいはつっていこう。おみやげになるからね」
 怪魚は、だんだん姿をあらわしていった。水面からよほど身体をのりだした。なんとなくそれは、その怪物が胸から肩の方まで出したように思われた。しかしその怪魚の身体の下部はどれくらい長いのか、どんな形になっているのか分からないので、胸までのり出したように思うだけであった。
 そのうちに怪魚の数がふえた。二、三十ぴきにふえた。しかもその怪魚たちは、上半身《じょうはんしん》を水面からのりだしたまま、一ヶ所に集まってきた。そして、ひゅうひゅうというような奇妙な声をあげ、たがいに首をねじまげ、顔をくっつけあいする。
「あの魚は、声を出すよ。ああ気味が悪い」
 キンちゃんは、正吉にしがみつく。
「声を出すだけではないよ。あれは、話をしあっているんだよ」
「えッ。話をしあうって。魚と魚と話ができるのかい。いやあ、たいへんだ、いよいよお化け魚ときまった。とてもたべられるしろものじゃない」
 キンちゃんは青くなった。
「あの様子を見ると、あの怪魚はぼくらの知っている魚よりも、ずっと高等動物にちがいない。ほら、あの怪魚たちは[#「怪魚たちは」は底本では「怪魚たちに」]、さっきからぼくらのいるのを知っているんだよ。だから怪魚たちはスクラムをくんで、じわじわとこっちへ近づいて来る」
「なに、こっちへ近づいて来るって。それはたいへんだ。逃げよう」
「なあに、大丈夫。怪魚たちは、ぼくたちとなにか話をしたいのかもしれない」
「とんでもないことだ、ちびだんな。あっしゃあんなお化け魚にくい殺されるのはいやだ。なんでもいいから逃げよう。さあ逃げるよ」
 キンちゃんは正吉の手をひっ
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