にをするつもりだい」
 正吉が、うしろの巨木の林をさしていう、その巨木は、地球の木とはちがい、ぼそぼそしたやわらかい下等な植物のように見えた。それはどことなくスギナやシダるいに似ていた。しかもその幹はたいへん太いものがあって、人間が四、五人手をつないでも抱ききれないほどのものもあった。キンちゃんは、その木のそばへ行ってみたいというのだ。
「あっしゃね、あの木が、料理をすれば、けっこう食べられるように思うんだ。ちょいとそれを調べてみたくてね。もし、うまく火星料理ができたら、第一番にお前さんに食べさせてあげるよ。だから、ちょっと行って下さい」
「ひとりで行くのは、こわいのかい」
「こわいことはないさ。しかし気味がわるいんでね」
「じゃあやっぱりこわいんじゃないか。おかしいなあ、大人のくせに」
 正吉はキンちゃんについて、林の方へ歩いていった。ほんとうは、正吉も気味がわるくてしかたがない。
「ねえ。あっしゃどういうわけか、身体がふわふわしてしょうがないんだがね」
「それは重力が小さい関係だよ」
「そうですかねえ。なんだか水の中を歩いているような気がするよ。さっき、石につまずいてひっくりかえったが、そのときね、からだはふわッと地面へあたりやがるんだ。ちっとも痛かないんだから、妙《みょう》てけりんだ」
「地球の上なら、さっそく鼻血を出したところだろうね」
「おっと、さあ来たよ。なるほど、この大木め、いやにぶかぶかしているよ。これなら料理すれば食えるね。すこし切って持っていこう」
 キンちゃんは、小刀《こがたな》をだして巨木の幹《みき》を切り取ったり、枝や葉を切り落したりして、料理に使うだけのものを集めだした。正吉は、それを見ているのには退屈して、林の中へどんどんはいっていった。すると、池のふちへ出た。池というよりは、沼地といった方がいいかもしれない。それは正吉にとって、めずらしい風景だった。
 巨木が重なりあって生えている。池のふちには、きみょうな形の葉がはえしげっている。水はどんよりと赤い。その水の中に、何か泳いでいる。小さな魚のようでもあり、そうでなく両棲類《りょうせいるい》か爬虫頚《はちゅうるい》のようでもある。それがモの下から出たりはいったりしている。
「おやッ」
 正吉は、とつぜん声をあげた。彼はあやしい大きな魚を見つけたのである。大きさは正吉ぐらいある魚が、大きな
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