とでしょう」
「そんなことをおっしゃるようでは、本当にご存じないようね。いったい、どんな塵だと思っていらっしゃるの」
「さあ」
正吉はそこまでたずねられると返答に困った。
「宇宙の塵というんだから、つまり宇宙旅行中に遭難してこわれたロケット艇なんかの破片や、その中からとび出した人間の死骸《しがい》や机や、イスや、そんなものが塵みたいになっているのを指していうのでしょう」
「いいえ、ちがいますわ。宇宙塵というのは宇宙をとんでいる星のかけらのことです。つまり隕石《いんせき》も宇宙をとんでいるときは宇宙塵といえるわけです」
「ああ、そうか。なるほど宇宙の塵ですね」
「火星のまわりをとりまいている宇宙塵は、隕石の集まりではなく、大昔に火星のまわりをまわっていた火星の衛星の一つがこわれたものだともいわれ、また、そうではなくて、いまのところその宇宙塵はどうしてできたかその原因は分からないのだともいわれます。とにかく火星のまわりを無数の星のかけらが包んでいるものにちがいありません。そういうものがあると、電波は宇宙塵に吸いとられてしまって、達しにくくなるのです」
「ああ、やっと通信の調子のわるいわけが、ぼくに分りました」
「そして、宇宙塵のあるかぎり通信がうまくいかないわけですね」
「そうです。だから、火星は、地球人とちがって、電波を利用することがあまり上手でないかもしれませんね」
正吉とスミレ女史がこうして話をしていたとき、ガーンとだしぬけに大きな音がした。それと同時に、ロケット艇はばらばらになるのではないかと思うほど、ひどく震動《しんどう》し、そして正吉もスミレ女史も床の上にたたきつけられた。室内の器具で、ひっくりかえったものは数をしらず、機械の間から花火は出、警報ベルは鳴りだすというえらいさわぎであった。そして停電になった。
「あ、痛い」
「な、なんでしょう」
電気が来た。それと同時に高声器が大きく鳴りだした。
「火災が起った。中部倉庫だ。必要配置員を残して、全員は中部消火区へ集まれ」
さあ、たいへんだ。
宇宙をとんでいる間に火災を起したくらい不安な出来ごとはない。なぜそんな火災を出したのか。
正吉は、どこの部屋の必要配置員でもなかったから、すぐに中部消火区へかけつけなくてはならなかった。でも、あまり不安が大きかったので、かけだす前にスミレ女史にたずねた。
「どう
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