って生みの母に一度も疑われずに来たというのは随分おかしなことだと思うんですよ。私は此の頃ではどうやらこの事件の本当の内容が判って来たように思うんです。
私の臆測《おくそく》が若し間違っていなかったとするならばですね、私はやっぱり細田氏を三角形に脅かして間接に殺したことになるのです。つまり私の立てた説が本当に物凄い価値を現わしたことになるのですね。
あの手紙ですか。あれはあの晩尋ねて行った須永先生が、私のことを大変心配して、どうにかして若い身空の私に元気をつけさせようと思って、大いそぎであの手紙を創作したのじゃないかと思っています。
それに一つ根拠のあることは、母の話によると、実は姉の生きていた頃、姉は大変須永さんを褒《ほ》めていて、誰かが悪口を言うとしまいには泪《なみだ》を出して泣いた位だという事です。あの手紙の中にある細田氏のことというのは実は須永さんの創作にして、且つ須永さん自身の体験の一部を漏《もら》してあったのではないかと思うのです。遺憾《いかん》なことに須永さんもそれから数年後、英国へ留学して、あの地で奇妙なバクテリアに取憑《とりつか》れて亡くなったので、そんな事に気が
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