あなたは?」
 怪囚人は、しっかりと少年を抱《かか》えていて、はなさなかった。そして仮面をかぶった自分の顔を見られまいと、顔をそっぽに向けていた。
「もう心配ありません。きみの生命、助かりました」
 怪囚人は聞きにくいことばで、少年をなぐさめた。
「ああ、そうだった、ぼくが地下道の中で溺死《できし》するとき、あなたはぼくを助けてくだすったのですね。ありがとう、ありがとう」
「そうです。私、君を助けました。君はかわいそうでありました。私は自分のためにこしらえてあった、脱走《だっそう》の穴を利用して、きみを救いました」
「えっ、脱走ですって、あなたは誰です」
 八木少年は相手の腕をおしのけて、相手をよく見ようとした。怪囚人は、もはや自分の姿を見られることをさけようとはしなかった。
「おお、あなたは……」
 八木少年はびっくりして、うしろへとびのいた。おそろしい顔だ、太い鉄鎖《てっさ》でつながれている囚人だ。極悪《ごくあく》の人間なのであろう。なんというおそろしいことだ。
 だが、次の瞬間、八木少年は前へとび出すと、死神の面をかぶった囚人の膝に、がばとすがりついた。そして涙と共に、おわびをい
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