とにきまった。
「聞いたかよ、おそろしいこんだ。時計屋敷を掃除して、あそこに人が住むんだとよ」
「これは困ったことだ。今にみんな、おそろしいたたりに泣き面をして暮らすようになるだべ」
「子供たちによくいいきかしとけよ、子供は、こわいもの知らずだから、新興班《しんこうはん》について、幽霊屋敷の中へはいるかも知れんからな」
「そうじゃ、うちの音松なんか、よろこんで時計屋敷の探険に行くちゅうだろう。はて、これは又気がかりなことがふえたわい」
そのようなわけで、旧家の人たちは、自分たちの子供に、時計屋敷へ近よってはならぬぞと、子供の顔を見ればいましめるのだった。
さて時計屋敷の大掃除をするに先立って、その下検分《したけんぶん》のために、七人の有力者が、屋敷へはいってみることになった。これがいわゆる新興班の連中で、北岸が班長、吉見がその副班長だった。
それはよく晴れた初夏の朝だったが、この七人は塀《へい》に縄ばしごをかけて、時計屋敷へ乗りこんだ。人々がよく働いているのが、お昼頃、村道からながめられた。しかしその七人は、その後どうしたわけか、邸《やしき》から出て来なかった。みんな行方不明になったのである。そら、いよいよ始まったと村の人たちは時計屋敷のたたりにふるえあがった。
この事件がきっかけとなって、八木音松《やぎおとまつ》をはじめとする少年探偵団の活躍が始まるのであった。
探偵団の結成
とうとう怪事件を、ひきおこしてしまった。いわないことじゃない。それだから、時計屋敷には手をつけるなと、昔からいいつたえられているのに、ばかなことをしたもんだ。
時計屋敷におそろしいのろいのかかっているのを信じている左内村の老人たちは、北岸の治作《じさく》さんほか六人の若者たちが、われからそのような悪い運命におちこんだのを悲しみ、そしてなげいた。
「も、誰も時計屋敷に近づけるんじゃないよ」
「あの屋敷に一足ふみこめば、地獄の血の池地獄までさかおとしじゃ」
そういうことばが、合言葉《あいことば》のように、左内村の中を何十ぺんとなく往復した。
この行方不明事件は、警察署へも報告された。しかし二名の警察官が自転車にのって、村長のところへ様子を聞きに来ただけで、警官は時計屋敷には足を入れず、そのまま帰ってしまった。
「おまわりさんだって、いやだよなあ。あんな幽霊屋敷にはいって、二度と外へ出てこられなくなるのはなあ」
村人は、そういって警官に同情した。
だが、この村にも、こんなおそろしがりやばかりではなかった。
「ねえ、時計屋敷の中で、北岸のおじさんなんかが、幽霊につかまって、捕虜《ほりょ》になってしまったというけれど、おかしいじゃないか。そんなことが信じられるかい」
そういったのは、村の小学校の金棒《かなぼう》の下に集まった少年たちの中の一人だった。いや、この少年こそ、この物語のはじめに出て来た八木音松少年だった。
音松は、おばあさんから時計屋敷の昔ばなしを聞いて、あの怪物屋敷にたいへん興味をおぼえるようになった。それ以来、彼は時計屋敷についてのいろいろな話に聞き耳をたてていたのである。音松は、はじめは時計屋敷がおそろしくてたまらなかったが、だんだん話を聞いて、その一つ一つのことを冷静に自分の頭で、ほんとうかどうかと判断して行くうちに、彼は時計屋敷がそんなにおそろしくなくなった。そして時計屋敷の秘密と取組んでやろうと決心したのである。
「幽霊なんて、話に聞いただけで、見たことがないから、信じられないや」
と六条君がいった。
「ぼくも信じないよ、幽霊だのお化けだの、そんなものが今の世の中にいてたまるかい」
五井少年が、力んでいった。
「ぼくたち人間の科学知識は、まだ発達の途中にあるんだから、もっと先になって、幽霊やお化けがあるってことが証明される日が来るかもしれない」と四本君がとくいのむずかしいことをいい出した。「しかしだ、たとえ幽霊やお化けが今実在するにしてもだ、その幽霊やお化けは、かならずぼくらの習っている物象《ぶっしょう》の原理にしたがうものでなくてはならない」
「四本君のいうことはむずかしくて、わからないや」
と、二宮少年が手をふった。
「いや、ぼくのいっていることはちっともむずかしくないよ。つまりここに一人の幽霊がまっすぐに立っているとなると、その幽霊は、やはり重力の作用を受けているにちがいないし、また空気の中に立っているんだから、幽霊の体積にひとしい空気の重さだけ幽霊のからだが軽くなっているはずだ。つまり浮力に関するアルキメデスの原理は、この幽霊にもあてはめられなくてはならない」
「おもしろいことをいうね、ははは」
音松は、腹をゆすって笑った。
「ちっともおもしろくないよ、幽霊の力学の話なんか、北岸のおじさんな
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