んかの、行方不明事件のほうはどうするんだい」
 と、二宮少年が、顔を赤くして叫んだ。
「二宮は、ぼくのいうことをしまいまで聞かないで怒るから困るよ、つまりね――」
「つまり――はもうたくさんだよ、四本君」
「いいや。ここはどうしてもつまりといわなくちゃね、つまりぼくのいいたいことは、幽霊でもお化けでもすこしもこわいことはない。奴らも、物象学にしたがわなくてはならないのだから、物象学をよく勉強しているぼくたちは、少しもこわいことはない。すなわち幽霊にあったら、幽霊の浮力を観察すればいいんだし、鬼火が出れば、それは空中から酸素をとって燃えているにちがいないんだし、こういう風に、おちついて幽霊をだんだん観察していくと、幽霊がどんなことをする能力があるかが分る」
「むずかしいね」
 二宮少年は顔をしかめる。
「むずかしいことはないさ、そういうわけだから、ぼくたちは幽霊をおそれずに、時計屋敷の幽霊に会って、はたして幽霊が北岸のおじさんたちをかくしたかどうか、それを推理すればいいじゃないか。さあ、みんなで、時計屋敷へ行こう」
「さんせい!」
「ぼくも、行くよ」
「なあんだ、行くなら行くと、それを先にいえば、ぼくは文句なんかいやしなかったんだ」
 二宮少年はむずかし屋の四本君が、自分と同じく時計屋敷探険を強く主張していることを知って、そういって笑いだした。

   嵐の声

 五人の少年探偵団ができあがった。
 団長は、選挙の結果、八木音松がつとめることになった。
 さっそく団長が、あいさつをすることになった。
「第一に、みんなのまもらなくてはならないことは、幽霊や化け物をおそれないで、四本君のいったように、おちついて観察し、その正体を見きわめることです。第二に、ぼくたちは協力し、団結しましょう。捜査にあたってばらばらになって、自分の好き勝手をすると、成績があがらないでしょう」
「そうだ、そうだ」
 と、二宮少年がこうふんして叫んだ。
「それから第三に、ぼくらが探偵となって時計屋敷の捜査を始めたということを、ぜったいに他の誰にも知られないようにすること」
「あら、いやだ。すっかり聞いてしまったわよ」
 ふいに、うしろで女の子の声がした。五人の少年探偵がおどろいて、声のした方をふりむくと、一人の女生徒がにやにや笑って立っていた。
「あ、吉見カズ子ちゃんか、困ったなあ、もう秘密が他へもれちゃったか」
 八木団長は、大きくため息をついた。
「いいじゃないか、カズ子さんなら、秘密をまもってくれるよ、だってカズ子さんのお父さんも、あの行方不明になった一人なんだからね」
 六条君がいった。[#「いった。」は底本では「いった」]カズ子は、副班長として時計屋敷の掃除にはいっていった吉見勤《よしみつとむ》の娘だった。
「ええ、あたしは秘密をまもりますわ、そしてお礼を申しますわ、お父さまたちを探し出してちょうだいね。また、あたしたち女の子に手つだうことがあったら、喜んで手つだいますわ」
「うん、またたのむかもしれないけれどね、とにかくぼくたちのことは、だまっているんだよ」
 八木団長は、そういって、カズ子に念をおした。
 さて少年たちは、午後二時に、学校がひけると、一度家へかえったあとで、そっと家をぬけ出して、集合所の鎮守《ちんじゅ》さまの境内《けいだい》へ急いだ。
 午後二時二十分に、五人の少年探偵は、せいぞろいをすることができた。
「じゃあ、いよいよ出かけよう、今日は、時計屋敷の中へはいっても、時計の塔までのぼれば、それで今日の仕事はすんだことにして、すぐ外へ出よう、ねえ」
 団長の音松は、そういった。
「それじゃ、あっけないね、せっかく探偵にはいるんだから、もっと調べようよ」
 二宮は、不満を顔に出して、そういった。
「いや、そうしないで、あまり屋敷の中で、ながいことをやると、北岸のおじさんみたいに、おとし穴かなんかに落ちてしまうんだ」
「おとし穴だって、音ちゃんは、おじさんたちが、おとし穴へおちたと思っているのかい」
 六条が、たずねた。
「そうかもしれないと、ぼくは思っているんだがね、とにかく、屋敷の中へはいってから出るまでに、あやしいことを見たり、あやしい音を聞いたら、よくおぼえておいて、外へ出てからあとで、よく話しあって、研究をしようや」
「そういう用心ぶかいやり方は、たいへんいいと思うね」
 六条が、さんせいした。
 五人の少年は、屋敷の中で、もし危険な目にあったら笛をふくことにきめ、それぞれ音色のちがった笛をポケットにもっていた。これはかねて、うしろの山登りをするときに少年たちが利用している呼び子の笛であって、どの音色が誰の笛か、それはよく知っていた。
 六条は、自分がこしらえた短波の無電器械をさげていた、それはべんとう箱を四つあつめたぐらい
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