再び耳にした。しかしこんどは、四少年の頭上はるかのところにおいてであった。
「おい、けがをしなかったか」
「ぼくは大丈夫、君はどうだ」
「ぼくは腰の骨をいやというほど打って、涙が出たよ、ぼくたちは、落とし穴へ落ちたんだね」
「そうらしい、やっぱり時計屋敷はすごいところだね」
「早く穴から出ようじゃないか」
「いや、だめだ。あれを見たまえ、大きな鉄の格子戸《こうしど》が穴の上をふさいでいるよ」
 さっきは見えなかったが、くらがりにようやくなれた今の目で見上げると、なるほど四本のいうとおり、穴は鉄格子でふさがれていた。
「困ったね。どうしたらいいだろう」
「八木君が助けに来てくれるといいんだが、八木君はどうしたろう」
「さあ、どうしたかなあ、また声を合わせて、呼んでみようか」
「叫ぶのはよしたまえ、こうしてぼくたちが落とし穴に落ちたのも、さっきぼくたちが、あんまり大きな声を出したから、それで落とし穴を用意されたように思うんだ」
 五井が、そういった。
「ああ、そうか、で、誰が落とし穴を用意したというの」
「ぼくらの敵だよ」
「時計屋敷の幽霊のことをいっているの」
「幽霊だか何だか知らないけど、とにかく時計屋敷に住んでいる怪《あや》しい奴《やつ》が、ぼくたちの敵さ」
 幽霊をはじめから信じない常識家の五井がそういった。
「しようがないね、その敵のため、ぼくたちははじめから捕虜《ほりょ》になってしまって……おや、へんだね、足許《あしもと》がゆらいでいるじゃないか」
「あっ、動いている。地震らしい」
「地震じゃないだろう。ぼくたちは、なんか動くものの上に乗っているんだ」
「あ、そうか、どこかへはこばれていくんだな」
 その先は、どこへ? 四少年は、たがいにしっかり抱きあって自分たちの運命を待っていた。

   かびくさい室

 その動くものは、たしかに大きな動力で動いているらしかった。
 ごっとんごっとんと、重いひびきが地底からひびいてくる。
 そのうちに、足の下が急に傾《かたむ》いた。ざらざらと土砂《どしゃ》が一方へ走る。
「しっかり、気をつけろ」
 と、五井が叫んだが、そのときには、足の下は急角度に傾き、四少年はずるずると滑《すべ》ってからだの中心を失った。
「あッ、落ちる」
 どすんと投げだされた。次々に投げだされた少年たちだった。びっくりして、呼吸がとまった。が、気がついてみると、あたりは今までのような半くらがりではなく、昼間の光がどこからか、さしこんでいた。そして、そこは板の間だったではないか。
 少年たちは、次々に起きあがった、腕をさすっているのは二宮、腰をおさえて、顔をしかめているのは六条、頭をしきりに振っているのは四本、平気な顔は五井だった。
「これはどうしても、時計屋敷の中だね、表からはいらないで、へんなはいり方をしたものだ」
 五井が、いった。
 そのとおりだった。妙《みょう》なところから、地下を経《へ》て送りこまれたのだ。これも時計屋敷の最初の主人公ヤリウスの秘密の設計なのであろうか。
 あとから考えると、四少年が、こんな裏口の道から時計屋敷の中へはいりこんだことは、むしろ幸運であった。というのは、この時計屋敷の正面からはいりこむことは、たいへん困難なことであった上に、危険がいくつも待っていたのだ。
 裏口の道にも危険な仕掛《しかけ》が用意されてあった。しかし今ではそれがもう役にたたない。仕掛が故障となっているためだった。だから四少年はまず無事のうちに、屋敷内に送り込まれたのである。もっとも、少年たちはそういう事情について全く気がついていなかった。
「奥へ行ってみよう」
「ちょっと待った」と四本がとめた。
「このまま進むことは危険だ。そこでロープでもって、ぼくたちの身体をしばっておいた方がいいと思う。つまりロック・クライミング――岩のぼりのときと同じように、もし一人が危険におちいったら、あとの者がロープをたよりに、助けあうのだ。そうすれば、とつぜん落とし穴へ落ち込むようなことはなくなるだろうと思う」
 この四本の考えは、もっともだったので、他の少年たちも賛成して、たがいの身体を、ロープでしばることになった。
 先頭は五井、次が六条、それから二宮、しんがりが四本だった。そしておたがいを結ぶロープの長さは三メートルとした。そして、危いと思われる場所へかかったときには、その間隔《かんかく》で展開することとし、別に危険がなさそうなところでは、普通に、寄りそって進むことにした。
 こうして、四少年は屋敷の奥へ向かって前進をはじめた。
「たしかに、この屋敷の建て方は、一風かわっているね、間取も、奇妙だ」
 四本が、あたりを見まわして、感じたことをもらした。
「気味がわるいね」
 と、他の少年たちも相づちをうった。
「西洋建築は
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