《みぞ》の中へかくれろ」
大時計が動きだせば、わずか一分ばかりの後に大爆発が起ることが予想された。たった一分間だ。みんなのあわてたのも道理であった。
まちがいなく一分後に、時計屋敷は大爆発し、天にふきあがり、崩壊《ほうかい》し去った。砂塵《しゃじん》のようになった破片がおさまると、さっきまで見えていた大時計台が、どこへけし飛んだか姿を消していて、屋敷跡へ目を向けた者の背筋《せすじ》を冷くした。
五少年と七人の村人は、あやういところを助かった。
このへんでこの物語の筆をおかなくてはならないが、まだ二つばかりお話しすることが残っている。
その一つは、水鉛鉛鉱の埋蔵場所というのは時計屋敷の真下だったことである。爆発の跡を探しているうちに、大地が掘れて、その鉱脈のあるのが発見された。
もう一つは、八木君を救ってこの屋敷の秘密を教えた怪囚人のことであるが、八木君は、あの硝子《ガラス》の床のある地下道がそっくり残っているのを見つけて、そこへはいっていった。しかしふしぎなことに、見おぼえのある鉄の鎖《くさり》と死神の仮面は見つかったが、かんじんの怪囚人の姿はなかった。
怪囚人は、どうなったか。その謎だけは、今もなお解けない。
「あれはヤリウスさんの幽霊だったかもしれないよ」
と、八木君は結論をこしらえた。
「いや、もう溺死《できし》しそうになってから、君は恐怖のために、しばらく気がへんになっていたんじゃないか、だから会《あ》いもしない怪囚人に会ったように思っているのじゃないか」
四本君がそういった。
「どうも分らないね」
「とにかくふしぎなことだ」
「世の中のことは、なんでもみんな答が出るというわけにはいかないよ」
「水鉛鉛鉱の鉱脈が見つかったのは、思いがけない大手柄《おおてがら》だったね」
そこで、少年たちは晴れやかにほほえんだ。
底本:「海野十三全集 第11巻 四次元漂流」三一書房
1988(昭和63)年12月15日第1版第1刷発行
初出:「東北小国民」
1948(昭和23)年5月〜10月
「AOBA」(「東北小国民」改題)
1948(昭和23)年11月〜12月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:kazuishi
2005年12月3日作成
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