んとうでない八木君は、幽霊か、化けものかであろう。ああ、気味がわるい。
「おい、君たちは、なんだって、へんな顔をして、だまりこんでいるんだい」
 と、八木がたずねた。
「だって……だって、君は幽霊じゃないのかい」
「なんだって、ぼくが幽霊だって……」
「だってさ、先に一人、君と同じ姿をした少年が塀を内側へ下りたんだ。つづいてぼくたちが下りてみるとね、その少年はいないのさ、ふしぎに思っていると、今君が塀の上から声をかけて下りてきた」
「うふ、わははは」
 と、八木は笑った。
「なにがおかしい」
「だって、はじめの八木少年も、あとから塀をのぼって来た少年も、どっちもぼくだもの、顔を見れば分るじゃないか」
「だってさ、はじめの八木少年は姿を消してしまったんだもの、あやしいじゃないか」
「ああ、それはこういうわけだ。ぼくは、一番先に塀を下りた。すると、そこに小さな洞穴《どうけつ》があいていた、ほら、見えるだろう、あれだ」
 と、八木は、くずれた塀の内側に小さい洞穴があって、入口を、雑草がしげってなかばかくしているのを指した。
「あの洞穴へはいって見たんだ、するとね、だんだん奥がふかくなって、道がまがってついている。その道のとおり歩いていると、ぽっかりと塀の外へ出たんだ」
「へえーッ、塀の外へね」
「そうなのさ、だからもう一度、塀をよじのぼって、こっちへ下りて来たんだ」
「なあんだ、そんなことかい、ちょっともふしぎでも怪事件《かいじけん》でもないや」
「ぼくたちは、時計屋敷がおそろしいところだと思いこんでいたので、こわいこわいが、今みたいに、二人の八木君を考えることになったんだよ」
「そんな風に、ぼくたちの頭がへんになるということは、もう時計屋敷の怪魔《かいま》のためにぼくたちがとりこになっていたしょうこだよ、いやだね」
「そうじゃないよ、ぼくらの神経がちょっとへんになっただけのことさ、こんな塀なんか普通のくずれた古塀だよ」
「いや、へんなことがあるのさ」
 と八木は顔をかたくしていった。
「あの洞穴の中にはいっていくとね、井戸みたいな穴があるんだよ。垂直に掘ってある穴だ、井戸かと思って、ぼくは中へ石を落としてみた。ところが、ぽちゃんともどぶんとも音がしない。だから井戸ではなくて、水のないから井戸だと分ったが、どうしてあんなところにから井戸が掘ってあるのか、ふしぎだねえ」
 
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