の大きさで、大して重くなかった。
 いよいよ鎮守さまの境内を出て、五人の少年がかたまって時計屋敷の塀のそとへついたのは午後二時五十分であった。
 急に黒い雲が太陽をさえぎったために、日がかげった。そしてどこからともなく冷っこい風が起って、少年たちのえりくびを吹いた。少年たちは、ぞっとしてくびをちぢめた。
 時計台のある怪屋敷は、崩れかけた塀を越した向こうに、何かものをいい出しそうに立っている。時計台の時計の針は、あいかわらず二時を指したままだ。
 勇ましいことをいって、ここまではやって来たが、なんだか急にうす気味が悪くなった。天候がにわかに変って、嵐もようになったのも、その原因の一つにちがいない。
「さあ、元気を出して、はいろうぜ」
 八木のうながすような声に「うむ」と返事をした。八木はつかつかと、崩《くず》れた塀《へい》のところへ進み、手をかけてその上にのぼった。そうしてうしろを向いておいでおいでをすると、塀を内側へとびおりた。
 それを見て、残りの四名の少年探偵も、やはりこれまでと覚悟をきめ、つづいて塀によじのぼり、それから塀の内側へとびおりた。
「おや、八木君はどこへいったんだろう、先へおりた音ちゃんが見えないじゃないか」
「あれッ、へんだね、もう八木君は、時計屋敷の幽霊につかまっちゃったのかな」
「いやだねえ」
 八木音松の姿は見えない。彼がひとりで先に塀をおりたあとで、いったいどんなことが起ったのであろうか。

   二人の八木君

「困ったねえ、八木君がいないと、あとの探偵はできやしない」
「そんなことよりも、早く八木君を助けてやろうよ、きっと時計屋敷の幽霊につかまったんだよ、早く助けないと、八木君は殺されてしまう」
「困ったね、しかしへんだね、ぼくたちより、たった一足先へとびおりたのに、もう姿がみえないんだからね」
 四人の少年は、塀の内側にからだをよせて、心配している。
「おうい」
 とつぜん頭の上で呼ぶ者があった。
「あっ!」
 四人が、声のした高塀《たかべい》の上へ目をあげると、なんというふしぎ、塀をのり越えて八木音松が下りて来た。
 さっき、まっ先にこの塀をのり越えた八木だった。姿が見えなくなる。と、またもや八木が、塀をのり越えて下りて来た。さっきの八木と、今下りて来た八木と、八木が二人居る。いったいどっちの八木が、ほんとうの八木であろうか。ほ
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