ことができた。
だが、東京に帰ってくると半平は重病になって、どっと床に就いてしまった。高熱がいつまでも下がらなかった。食物もろくろく口へ入らなくなって、とうとう新婚後三十日と経《た》たないのに、
「ななな、何が幸運の黒子だ!」
と呻《うな》りながら、半平は鬼籍に入ってしまったのだった。哀れな半平だった。
話はこれでおしまいである。
蛇足を加えるならば、半平の考えは間違っていた。幸運の黒子は、やっぱり幸運の黒子だった。なぜなら半平の死とともに、一カ月で未亡人になったみどりは××生命から現金で金一万円也を受け取った。それが亡夫の掛けていた生命保険だったことは、読者諸君のよく承知のところである。
幸運の黒子はみどりにあったので、半平にあるのではなかった。
半平の認識不足が、この物語を生んだのだった。
底本:「赤外線男 他6編」春陽文庫、春陽堂書店
1996(平成8)年4月10日初版発行
入力:大野晋
校正:しず
2000年2月26日公開
2005年9月27日修正
青空文庫作成ファイル:
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