い》を貞淑に守りつづけているのを見ちゃいられなかったせいだった。そして半平は、あくまでも亡妻への貞操を死守するつもりだったのである。彼のエネルギッシュな敵娼《あいかた》の理解を得ることができず、ついに暴力をもって征服されちまったのである。
そして、数日後に半平は身体《からだ》の一部に異常を発見したのだった。彼にとって、それは踏んだり蹴《け》ったりの不運だった。
いや、それよりも差し当たり大問題なのは、あと四十九回の治療代をどうして捻出《ねんしゅつ》すべきかということだった。
これが五年前なら五千円の貯金があった。その年の暮れ、三千円というものを費《つか》って新妻を持った。その細君はさらに次の年に慢性病になり、転地療養をすることになって残額の二千円はばたばたとなくなってしまった。そして貯金通帳から、最後の五十銭までが奇麗に払い出されると、間もなく細君の寿命も、天国に回収されてしまった。彼はまったく無一文になったのだった。
(四十九回の注射をやらなければ、この身がだんだん腐っていく!)
こうなると、半平は泣いてばかりもいられなかった。
三日三晩考え抜いた揚句、やっとの思いで彼は案
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