に攻勢的同情《こうせいてきどうじょう》を求めるわい。しかしいつまでもわしの部屋に頑張られても困るが、一体|貴公《きこう》の教わりたいという事項は、何じゃったね」
「あれぇ、金博士はもうそれをお忘れになったんですか。そんなことじゃ困りますね」
 と、私は大袈裟《おおげさ》に呆《あき》れてみせて、ひとのいい博士の、急所に一槍《ひとやり》突込《つっこ》んだ。
「ああそれは済まんじゃった。はてそれは何のことだったか、ああそうか、殺人光線のエネルギー半減距離《はんげんきょり》のことだったかね」
「いえ違いますよ。博士、私が教えてくださいといったのは、そんなむつかしい数学のことではありません。つまり、文化生活線上に於けるわれわれ人間は、究極《きゅうきょく》なる未来に於て、如何《いか》なる生活様態《せいかつようたい》をとるであろうか? その答を伺《うかが》いたいと申したのです」
「なんじゃ、もう一度いってくれ。何の呪文《じゅもん》だか、さっぱりわしには通《つう》じない」
「何度でも申しますが、つまり、文化生活線上に於けるわれわれ人間は、究極なる未来に於て、如何なる生活様態をとるものであろうか? どうです。今度は分りましたろう」
「何遍《なんべん》聞いても、分りそうもないわい。結着《けっちゃく》のところ、やがて人類はどんな風な暮し方をするかということなのじゃろう」
「そうですなあ。まず簡単粗雑《かんたんそざつ》にいうと、そういうところですねえ」
「そうか、そんな質問なら、答はわけのないことじゃ。ピポスコラ族と全《まった》く同じようになる。そして一万年か二万年たてば、われわれ人類にはネオピポスコラ族という名前がつくだろうな」
「ははあ。そのピポスコラ族というのは、何ですか。どこにいる民族ですか」
「それは、今わしがいっても、お前はとても信じないと思うから、いうのはよそう」
「博士、それは卑怯《ひきょう》というものです。今までに民族学や人類学はずいぶん勉強しましたが、ピポスコラ族なんてものは聞いたことがありません。博士は出鱈目《でたらめ》をいっていられるのでしょう」
「莫迦《ばか》なことをいっちゃいかん。尤《もっと》も、パルプで慥《こしら》えたあのやすい本なんかには出とりゃせんだろうが、わしは嘘をいっているのではない」
「じゃ説明してください。或いは、私をそのピポスコラ族の前へ連れてい
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