上に垂《た》れ下《さが》ろうとする毒瓦斯の煙幕《えんまく》よりは、更に風上に、薄紅《うすあか》い虹《にじ》のような瓦斯を物凄《ものすご》くまきちらして行った。それは椋島《むくじま》技師が陸軍大臣と打合わせた手筈《てはず》により、投獄と世間を偽《いつわ》って実は密《ひそ》かに某所《ぼうしょ》で作りあげたフォルデリヒト解毒《げどく》瓦斯であった。勿論、その一隊の誘導機上には、もう死刑執行の日も近い筈の椋島技師のいとも晴やかな笑顔があった。



底本:「海野十三全集 第1巻」三一書房
   1990(平成2)年10月15日第1版第1刷発行
初出:「新青年」
   1931(昭和6)年5月号
入力:田浦亜矢子
校正:もりみつじゅんじ
2001年12月3日公開
青空文庫作成ファイル:
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