るが、それが如何なる人物であるか、探偵でもありませんのでつきとめては居りませぬが、どうも一《ひ》と筋縄《すじなわ》や二《ふた》筋縄で行かぬ人物であり、しかもその犯人は相当インテリゲンチャであると思うのであります。それで吾人《ごじん》は充分、警戒をする必要があると考えます。殊に今日迄の災害の後をふりかえってみますに、いずれも会合の席を覘《ねら》って居るようでありまして、今後、私共科学者の集会はなるべく控えるか、または極力秘密な場所に開き、尚《なお》これに官憲の保護を得るようにつとめたいと考えますが、かように私の御警告申上げることについてみなさんは、或いは異説をおもちかと存じ、今度は充分御対論を願いたく尚《なお》警戒法について御心付の点をお話し願いたい。現に今夜のこの会合の如き、最も鏖殺《おうさつ》し甲斐《がい》のあるものでございますが、いままでなんともないところをみると、或いは遂になんでもないかもしれないのでありまするが、或いは又、これから爆弾が降ってくるかもしれないのでございます。いやそれは冗談でありまして、実は私の老婆心から、本会場は既に厳重な警視庁の警戒でとりまいてございますから、どうぞ御安心をねがいます」と博士はニヤニヤと両頬に笑《え》みをうかべながら諧謔《かいぎゃく》を弄《ろう》して着座したので、最初のうちは顔色をかえた会員も、哄笑《こうしょう》に恐怖をふきとばし、一座は和《なごや》かな空気にかえった。一旦席についた博士は衣嚢《かくし》から金時計を出してみたあとで一座の顔をみわたしたが、「どうぞ御意見を……」と言った。そして急に立ちあがって「ちょっと便所へ……」と隣席の川山博士に耳うちをすると、席を立った。そして入口の扉《ドア》をあけて室外に出ると、
「先生、なにも変ったことは御座いません」と、今夜の警戒の第一線に自ら進んで立っていた松ヶ谷学士が、いきなり博士に顔を合わせて、こう囁《ささや》いた。
「わしは便所へ行って来る、よろしく頼むぞ」博士は、例の調子で呻《うめ》くように言うと、そろりそろりと便所のある方へと足どりを搬《はこ》んで行った。会合室内では蓑浦中将が立って、
「唯今、協会長の御説明のあった最近の奇怪なる事件につきまして、私の……」と、そこまで話をすすめて来たときに、どうしたものか、グローブの中の電燈が、急に二倍もの明さに輝いたかとみる間に、スー
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