いませんよ」
 そういいながらレッド老人は、金網の小さい口を開けてなかから一匹の鼠を取出しポケットに入れ、そしてまた元のように金網の入口を閉めた。
「さあ、これでいいでしょう。もう一度数えてみて下さい。籠の中の鼠は二十匹となりましたぜ」
 ワイトマンは再び籠の中に顔を近づけ、念のためにもう一度、籠の中の鼠を数えた。ゴソゴソ匍いまわっている鼠は、確かに二十匹だった。
「よォし、二十匹だ。無税だァ」
「へえ、有難うござんす。それでいいんですね。じゃ通して貰いましょう」
 レッドは籠を卓子《テーブル》の上から持ち上げた。
 途端にワイトマンが叫んだ。
「オイ待て。――」
「なんですか、旦那」
「貴様は、もう許しておけんぞ。この卓子の上を見ろ」
 ワイトマンが憤りの鼻息あらく指さしたところを見ると、彼の大事にしている丸卓子の上は、鼠の排泄した液体と固体とでビショビショになっていた。
 レッドは鼠の籠をぶら下げたまま、頭を掻いた。そして腰にぶら下げてあった手拭を取って、卓子の上を綺麗に拭った。そしてワイトマンの宥恕《ゆうじょ》を哀願したのだった。
「レッド。勘弁ならぬところだが、今日のところは大
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