ッチの話をもっと書くのだったらそれから先に或るアイデアがないでもなかった。――すなわち、作中の主人公梅田十八が遂に意を決して妖婆を殺そうとする。城内から大きな沢庵石《たくあんいし》――は、ちと可笑《おか》しいから、大きな石臼を見つけてきて、これを目の上よりも高くあげて、寝台に睡る妖婆の頭の上にドーンとうちつける。ギャーッと一声放ったが、この世の別れ、妖婆の呼吸《いき》が絶えると、梅田十八の姿は一寸ぐらいの小さな二十日鼠《はつかねずみ》の姿となって――一寸はすこし短かすぎるかな、とにかく正確なところは後で索引付動物図鑑を引いてということにして「寸」の字だけで、数字は消して置こう。
しかし、そこで妖婆を殺してしまったのでは、小説として一向面白くない。もっと妖婆の妖術を生かさなければ損である。
では、こうしてはどうであろうか。主人公梅田十八はお城へ探検になど来なかったことにする。
彼は原稿の債務なんかすっかり片づけてしまって、のうのうとした身体になっている。そこへ彼が口説いてみようかと思っている近所の娘さんが臙脂《えんじ》色のワンピースを着て遊びにやってくる。
そこで梅田十八は、ルリ子――娘さんの名である――を伴って散歩に出かける。二人は歩き疲れて、月明るき古城を背にしてベンチに並んで腰を下ろす。そしてピッタリと寄りそい甘い恋を囁《ささや》きかわすのだった。
ところが城の中にいた妖婆アダムウイッチが遥《はる》かにこれを見て、大いに嫉妬する。そしてたまりかねて、自暴酒《やけざけ》を呑む。あまりに酒をガブガブ呑んだので、蒟蒻《こんにゃく》のように酔払って、とうとう床の上に大の字になって睡ってしまう。
お城の下では、十八とルリ子が、あたり憚《はばか》らずまだピッタリと抱き合って恋を語っている。月が西の空に落ちたのも知らない。そのうちに東の空が白み、夜はほのぼのと明けはじめ(ああ夜が明けはじめるなんて、くだらないことを思いついてしまったものだ。本当に夜はまだくろぐろと安定しているのであろうな。カーテンを開いて窓の外を覗いてみよう。うむ今のところ、まだ大丈夫である)
若き二人の抱き合っている傍には、大きな柘榴《ざくろ》の樹があって、枝にはたわわに赤い実がなっている。その間を早や起きの蜂雀の群がチュッチュッと飛び戯れている。まるで更紗《さらさ》の図柄のように。
お城で
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