ある確証が上ったんですか」
と訊《き》くと、彼女は、
「それは、函の中に、彼が殺人に使った薄刃《うすば》の短剣が血にまみれた儘《まま》入っていたのですわ。そして血染の彼の指紋まで出ていましてよ。その上、あの日お父さんの部屋から失《う》せた小函を持っていただけでも怪しいことが分るでしょう」
僕はその言葉を聞いて、あの虫の好かぬ森虎が、亡父の仇敵だったことをハッキリ知って、彼女に感謝した。しかしまだもう一つ腑に落ちぬことがあった。
「一体どうして貴方は、あの小函を探す必要があったんです。また父は、その小函の中にどんな大事なものを入れてあったのでしょう」
彼女はそこですこし照れたらしく唇を噛みながら囁《ささや》くようにいった。
「……どうでもお聞きになりたいのね。じゃあ仕方がありませんわ。――あの小函をハルピン虎が開いてみますね、中にはなんにも大切なものが入っていなかったのよ。ただ彼はあの中に血染めの凶器をかくして小函を利用したわけなのね。ところが実はあの小函には、日本政府があるところからお預りしている非常に大切な書類が入っていたのよ。そういえばもうお察しがついたでしょうが、あの函は二
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