の間、気味のわるいほど一語も発しなかった。ときどき彼女の柔軟な二の腕が僕の腰に搦みついたり、そうかと思うと熱い呼吸が僕の頬にかかったりした。
「さあ、こんどは座って下さらない。……そっとですよ。そっとネ」
 僕はいうとおりにした。
「もう目隠しはとってもいいわ、あとのことが出来ないから、仕方がないわ」
 目隠しをとってみると、想像していたよりも愕いた。僕は首から下に、美しい女の身体をもっているのだった。乳房は高く盛りあがり、膝もふっくりと張り、なげだした袂の間からは、艶かしい緋の襦袢がチラとのぞいている。――僕は半ば夢ごこちだった。
「さあ、頭を出して下さい」庵主は背後にまわると、僕の頭に布を巻いた。
 それから、どこに蔵ってあったのか、匂いの高い白粉を出して来て、僕の顔に塗りはじめた。呆《あき》れかえっているうちにそれも終った。
「すこし重いわよ」
 そういう声の下に、頭の上からズッシリ重いものが被《かぶ》せられた。そして耳のうしろで、紐がギュッと頭を縛めつけた。
「さあ、出来上った。――まあ貴方、よく似合うのネ。ほんとに惚《ほ》れ惚《ぼ》れするようないい女になってよ、まあ――」
 
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