女は別人のごとくになった。
「それは、森おじさんの戸棚の中で拾ったものですよ」
「森おじさんというと……」
「ゆうべお話した森虎造のことですよ。僕の母親が、いま泊っている筈《はず》の家です」
「ああ、そうですか。……貴方は森虎造の戸棚の中に、これと一緒にあった美しい貼り交ぜをしたこれ位《ぐらい》の函を見ませんでした?」
 といって尼は、弁当函ほどの箱の大きさを手で示した。彼女の云うので思い出したが、僕が森虎の戸棚探しを始めて間もない頃、一つのトランクの中に、いま話のような美しい小函を見つけたことがあった。それは玩具のように美しかったので覚えている。手にとりあげてみると、たいへん軽かった。開けようとしたが錠がかかっていた。耳のところで振ってみると、コソコソと微《かす》かな音がした。大したものも入って居らぬらしく、それにそのときは鍵が見つからなかったので、そのまま元のようにして置いた。その後、そのトランクに錠がかかって、もう見られなくなった。――僕は尼がその函のことを云っているのだと思った。しかしそれにしても、何故そんな函のことを隆魔山《こうまさん》の尼僧が知っているのだろう?
 僕が黙っ
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