とを教えられきた旨を告げたのだった。そして、
「……どうか、この暴逆なる[#「暴逆なる」はママ]手より、しばらくお匿《かく》まい下さいまし」
と、両手をついて頭を下げた。
「それはまことにお気の毒なお身の上」と尼僧は水のように静かに云った。「おもとめによりお匿まい申しましょうから、お気強く遊ばせ。しかしながら、わたくしにも迷惑のかかることゆえ、いかなることがありましょうとも、わが許しなくてはこの庵室より外に出ることは愚《おろ》か、お顔を出すことも罷《まか》りなりませぬぞ」
「ああ、忝《かたじ》けのうございます。匿まって下さるのだったら、なんで庵主さまのおいいつけに背きましょうか、どうも有難うございます」
僕は感激のあまり、畳の上へほろほろ泪《なみだ》を落した。
尼僧は僕に一杯の白湯をふるまったあとで、
「ではもうお疲れでしょうから、お睡りなさいませ。但し他所から衾をとってくることもなりませぬからわたくしと一つ寝となりますが、よろしゅうございますか」
「一つ寝?」僕は愕《おどろ》いて聞きかえした。「いえ、僕は寝なくてもいいのです」
尼僧はそれには返事もせず、しとやかに立ちあがると
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