、縛って……突き出して下さい」
「叱《し》ッ。――」と女は目顔で叱って、「……誰かに悟られると、大変なことになってよ」
「えッ。――」
 僕は女の方をふりかえった。
「さあ、ここにいては危い――早くお逃げなさい」
「ああ、貴女は僕の敵ではなかったのですか」
「もちろんよ」と女はニッコリと笑い「でもこの島のどこへ逃げても危いわネ。じゃあ隠れるのに一番いいところを教えてあげるわネ」
「え、隠れどころ?」
「この向うの道をドンドン南へとってゆくと、山の上に昇っちまうのよ。そこに大きなお寺があるの。そこは蓮照寺《れんしょうじ》という尼寺《あまでら》なのよ。そこは女人の外は禁制なんだけれど、裏門から忍びこんでごらんなさい。そして鐘つき堂のある丘をのぼると、そこに小さな庵室《あんしつ》があってよ。そこに秀蓮尼《しゅうれんに》という尼《あま》さんが棲《す》んでいるから、その人にわけを言って匿《かく》まってもらうといいわ。分って?」
「ああ、分りました。ありがとう、ありがとう、僕はどんなにして貴方にお礼をしたらいいでしょう」
「お礼ですって? ホホホホ。生命をとられかけていて、お礼はないわよ。……それ
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