重底になっていて、その間に挟んであったわけなのよ。もし政府がその保管に任ずることが出来ず、外へ行ってしまったとなると、とんでもない事態となるんです。それでどうしてもあれを探しだす必要があったのよ。そこまでいえば、あたしが何者であるかもお分りになるでしょう。もちろんあたしは尼さんでもなんでもないのよ。命令によって働いている婦人警官の小田春代という女なんですわ。あたしは特に選ばれて、すこし臭いハルピン虎を探《さ》ぐる係となり、黄風島へ出かけて尼僧に化けているところを貴方にお目にかかり、それからあの鍵をみて、それでこの大成功をおさめたのよ。しかしね、あたしはもうこの事件を最後に退職する決心ですわ」
「退職するって。そしてそれから後をどうするの?」
「さあ、どうしましょうかねえ、あなた……」
「……」僕は黙って傍の棚の上から島田髷の鬘《かつら》を下ろすと彼女の頭にかぶせた。するとそこにははっきりと鍵から抜けだした横顔の女が現われた。「これが結えるくらい髪が伸びるのを待って、君と僕との盛大な結婚式をあげようね」



底本:「海野十三全集 第2巻 俘囚」三一書房
   1991(平成3)年2月28日第1版第1刷発行
初出:「富士」
   1936(昭和11)年4月号
入力:浦山聖子
校正:もりみつじゅんじ
2002年1月3日公開
2009年10月25日公開
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